建築行脚

丸栄百貨店

少し前のことになりますが、名古屋に行く用事があり、そのついでに気になっていた建築をいくつか回ってきました。その中の幾つかを紹介しようかと。
まずは名古屋の老舗百貨店の丸栄百貨店。ここは村野藤吾設計の百貨店ですが、百貨店建築としては唯一日本建築学会賞を受賞しています。昨年秋に惜しくも閉店及び解体再開発計画が発表され、その後の建築の行方が危ぶまれているところです。気になっていたのでこの機会に見に行ってきました。
同じ村野藤吾によるそごう大阪は建て替えられて随分経ちますが、大阪で生まれ育った私にとってあのファサードが醸し出す街の雰囲気は幼少の頃から記憶に深く刻み込まれていたものでした。そして今回、ここを訪れて改めてその記憶が呼び起こされる思いでした。細いルーバーに挟まれた緻密な意匠、その反復によって構成されるファサード。ガラスブロックに見える意匠は近づいてよく見ると型ガラスに格子状の模様が施されている。あぁ、そういえばそごう大阪では小さなガラスブロックが嵌め込まれていたな、と比べてみたり、あっちにはなかった水平のラインがこっちでは強調されているな、とか。また西側のファサードにはタイルによる大胆な壁画もあります。
非常用進入口のバルコニー部分も同様の意匠パターンが施され、コンクリートとサッシュ、ガラス、やタイル、手摺など、単位面積当たりに使用される素材の多いこと。それらが繊細に納まり、煩雑さを感じさせることなく広大な面積を覆っています。
きっとこのファサードも多くの人々の記憶に刻まれているはずだと思うと、そごう大阪の解体を目の当たりにした私としてはやるせない思いでいっぱいです。老朽化や耐震性、商業的な面積の拡充などの理由によって解体される名建築が多すぎる気がしています。同じ百貨店でもロンドンのリバティのようにもっと古くから残されている建築もあるというのに。
地震国ゆえに海外のように保存活用が当たり前という文化が根付かないのかも知れません。しかしこれだけストック活用の重要性が問われる現代だからこそ、解体した方が経済的という考え方を見直す必要があると思うのです。

この丸栄百貨店もいよいよ今月末で閉店です。直後から解体されることはないでしょうけど、内部にも階段など所々当時の意匠が残されています。最後の機会、となっては欲しくないですが、より多くの人々にその価値を分かってもらえたらなと思うのです。

話が長くなりました。続きはまた今度…。